事業承継とは、中小企業を中心に現経営者が保有する株式・経営権・知的資産を次世代へ引き継ぐプロセスを指します。親族への株式相続だけでなく、M&A による第三者承継や従業員承継(EBO)も含む総合的概念です。日本には約 367 万社の中小企業がありますが、その 7 割超の経営者が 60 代以上とされ、早期準備は企業存続の生命線となっています。
なぜ今、事業承継が注目されるのか
休廃業・解散 6.26 万件の衝撃
2024 年に「休廃業・解散」に追い込まれた企業は62,695 件で過去最多を更新しました。背景には後継者不足とコロナ融資返済の二重苦があります。
GDP・雇用へのインパクト
中小企業が GDP の 50%、雇用の 70%を支える日本では、事業承継の遅れが地域経済の空洞化を招きかねません。そのため政府は「事業承継5ヶ年計画」(2023-2027)を策定し、各種優遇税制や補助金で支援を強化しています。
3つの承継形態と特徴
| 形態 | 概要 | メリット | 主な課題 |
|---|---|---|---|
| 親族内承継 | 子や孫が株式と経営を引継ぐ | 企業文化・血縁維持 | 相続税・適任者不足 |
| 従業員承継 | EBO/MBO 等で内部昇格 | 社内ノウハウ継続 | 株式取得資金 |
| 第三者承継 | M&A により外部企業へ | 対価最大化・成長シナジー | 文化統合・情報漏えい |
法制度の全体像
経営承継円滑化法
同法は民法特例・金融支援・税制支援の 3 本柱で構成され、株式分散防止や相続時の資金繰りをサポートします。2024 年4月施行の改正では、特例承継計画の提出期限が 2 年延長、受贈者年齢要件が 18 歳以上に引き下げられました。
法人版事業承継税制(特例措置)
- 非上場株式の贈与・相続税 100%猶予・免除
- 適用期限:2026 年 3 月 31 日まで(10 年限定)
- 2025 年度改正で役員就任要件が緩和され、贈与直前就任でも適用可
- 特例承継計画の累計申請件数は 8.2 万件、適用件数は 9,300 件(2024 年度末時点)
税務・財務のキーポイント
- 株価算定:類似業種比準 × 純資産価額法のハイブリッド方式が主流
- 納税猶予:猶予株式の 80%→100% へ拡充(2018 改正)
- 金融支援:日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」で最長 20 年融資
- 保証協会:後継者資金繰り特別保証枠(8,000 万円・責任共有対象外)
公的支援策・補助金
2025 年度の事業承継・M&A 補助金は、専門家費用を上限 800 万円・補助率 2/3で支援し、マッチングコストを大幅に圧縮します。
事業承継ガイドラインが示す5ステップ
- 現状把握(事業承継診断)
- 経営改善(財務・組織の磨き上げ)
- 承継計画の策定
- 実行(株式・経営権移転)
- モニタリング(後継者支援・ガバナンス)
同ガイドラインは 2024 年改訂版で支援機関との役割分担を明確化し、DX や ESG 承継の視点も追補しています。
M&A 市場の最新トレンド(2024-2025)
- M&A 成約件数:年間 6,900 件で 8 年連続増加(速報値)
- ディール金額:後継者不足型 M&A が 54%
- 業種別:製造業 → サービス業へシフト、IT 業も増加
「後継者難 × 人手不足」を背景に、第三者承継比率が初めて 50%超を記録しました。
デジタルツールと支援インフラ
事業承継・引継ぎ支援センター 全国 47 都道府県で無料相談を実施。年間マッチング 7,000 件。 中小 M&A プラットフォーム レコフ・トランビ・ビズリーチサクシード等が AI マッチングを提供。 クラウド株価算定 SaaS YETAX・Valuation ONE が自動査定レポートを即日出力。
事業承継を成功させる8つのチェックリスト
- 後継者候補を3名以上リストアップ
- 株主構成を整理(議決権 2/3 以上を確保)
- 経営権と資産承継を分離できる信託活用可否
- 自社株評価の試算と納税資金シミュレーション
- 役員退職慰労金・自社株買いを活用した株数圧縮
- ガバナンス体制(社外取締役・監査等委員会)
- 知的資産・ノウハウの見える化(レシピ、設計図)
- 従業員・取引先へのステークホルダー・コミュニケーション
FAQ(よくある質問)
Q. 税制の適用を受けるにはいつまでに何をすれば良い?
A. 2026 年 3 月 31 日までに特例承継計画の認定を受け、贈与・相続を行う必要があります。
Q. 親族がいない場合はどうする?
A. 第三者承継(M&A)、EBO、地域の事業承継・引継ぎ支援センターを活用しましょう。
Q. 株価が高すぎて贈与できない…
A. 退職金支給・種類株式の導入・議決権集約スキーム等で評価圧縮し、納税猶予を併用します。
Q. 承継後に赤字になった場合、猶予税額はどうなる?
A. 後継者死亡・災害等やむを得ない事由があれば納税免除の可能性がありますが、原則は継続要件を満たす必要があります。
まとめ――「早期準備 × 公的支援」で未来をつなぐ
事業承継は法務・税務・人材・資金繰りが複雑に絡む総合プロジェクトです。
2025 年の税制改正・補助金拡充によりチャンスは広がっていますが、特例措置の期限は 2026 年 3 月まで。まずはガイドラインの 5 ステップに沿って「早期着手・見える化・専門家連携」を実行し、100 年企業へのバトンを確実につなぎましょう。


