株式会社船井総研あがたFASが、建設業の経営者に向けた事業承継・M&A実務解説シリーズを公式YouTubeチャンネルで開始しました。技術者の世代断絶、後継者不在、建設業許可や経営事項審査の引き継ぎという業界固有の論点に正面から向き合い、汎用的な解説では届かない実務の核心を突くコンテンツとして注目されています。
船井総研あがたFASとはどのような会社か
船井総研あがたFASは、船井総合研究所グループの知見とあがたグローバルの税務・会計・M&Aアドバイザリー機能を組み合わせた専門会社です。本社は東京都中央区に置き、代表取締役社長は光田卓司氏が務めます。
注目すべきは、単なる仲介に留まらない支援体制です。戦略立案から企業価値評価、譲渡後の統合(PMI)まで一貫して関わる構造は、財務デューデリジェンスと現場コンサルティングを分離しがちな従来型の体制とは一線を画します。船井総合研究所は建設・住宅・不動産の分野で業種特化の経営研究会を主宰してきた実績があり、そこに蓄積された業界知見がM&Aアドバイザリーと融合している点が強みです。同社のコンサルタントはBATONZ主催「M&A Professional Award 2025」成約数部門(個人)を受賞しており、実績面でも裏付けがあります。
なぜ今、建設業に特化したM&A解説が必要なのか
建設業のM&Aを汎用的なフレームで語ることには、構造的な限界があります。理由は三つに整理できます。
技術者の世代断絶が生む承継リスク
建設業の現場では、ベテラン層と若手層のあいだの中間世代が薄いという構造的な課題が指摘されています。国土交通省の建設工事施工統計や建設業振興基金の調査でも、建設技能労働者の高齢化と若年入職者の減少が継続的な課題として示されており、世代間の技術継承が難しくなっているとされています。これは単なる人手不足の話ではありません。ベテランが退場した後に技術を受け継ぐ世代が社内にいなければ、企業としての施工能力そのものが空洞化します。M&Aによって規模の大きいグループに入ることで、この技術継承リスクをグループ全体で分散できる——これが建設業でM&Aが有効な選択肢となる核心的な理由の一つです。
後継者不在の構造問題
先代経営者の子息・子女が他業種へ進み、会社に戻らないケースは建設業に限りません。しかし建設業では、土地・建物・車両といった有形固定資産の保有水準が高い企業が多く、純資産価額方式で株式評価を行う場合に株価が押し上げられやすい構造が生じることがあります。その結果、従業員への株式承継が財務的に重くなりがちです。親族外の内部昇格による承継を選ぼうとしても、株式取得の資金調達が壁になる。この点は、製造業や小売業とは異なる建設業固有の難しさです。
許認可の引き継ぎという見落とされがちな論点
ここがポイントです。建設業には建設業許可と経営事項審査(経審)という二つの重要な許認可制度が存在します。経審の点数は公共工事の入札資格と直結しており、点数が高いほど大型案件への入札が可能になります。事業譲渡(資産の売買)では原則としてこれらの許可は引き継がれないため、譲受先が改めて申請・取得が必要となる場合が多くあります。一方、株式譲渡では法人格が維持されるため、原則として施工実績・顧客基盤・経審の点数・建設業許可はそのまま次の体制へ存続します(ただし役員変更等を伴う場合は所定の変更届が必要です)。このスキームの選択が、譲渡後の事業継続性を大きく左右します。汎用的なM&A解説がこの論点を素通りしがちなのは、建設業の実務を知らないからにほかなりません。
YouTubeシリーズの構成と初回テーマが示す戦略的意図
今回開始されたシリーズは、業界の現場を知るコンサルタントとM&A実務の専門家が2名で登場する座組みを基本としています。初回のテーマは「建設会社の出口戦略と、譲受企業のニーズの実態」です。
出口戦略を①親族承継、②従業員承継、③M&A(第三者承継)の3択で整理し、それぞれの壁を具体的に論じる構成は、経営者が「自社に当てはめて考えられる」設計になっています。特に注目すべきは、「うちを欲しがる会社はない」と考える経営者への視点の転換です。自社が保有していない工種の許可や、決算書には表れない顧客基盤を求めて動く譲受企業の存在を示すことで、M&Aを「売れるかどうか」ではなく「誰にとって価値があるか」の問いに変換しています。
登壇する2名の専門家プロフィールと役割分担
初回に登壇するのは以下の2名です。
- 中嶋翔一氏(株式会社船井総合研究所 マネージングディレクター/船井総研あがたFAS 兼任):電気工事会社を経営する父を持ち、2017年に船井総合研究所へ入社。現在は建設業界向けコンサルティング部門を統括し、2025年からあがたFASを兼任して業界再編に向けたM&A事業に携わっています。現場感覚と経営支援の両面を知る立場です。
- 宮光弘氏(株式会社船井総研あがたFAS マネージャー):金融機関での資産運用業務を経て、コンサルティング会社で事業承継・M&Aに従事。あがたFAS参画後は建設・内装工事・設備工事・ビルメンテナンス業界など幅広い領域でM&A仲介の実績を積んでいます。財務・バリュエーションの専門性と業界理解を兼ね備えた実務家です。
この組み合わせは偶然ではありません。現場コンサルタントとM&Aアドバイザーが並ぶことで、「経営上の判断軸」と「譲渡実務の論点」を同じ場で議論できます。どちらか一方だけでは、どうしても片側の視点に偏ります。
建設業M&Aにおける株式譲渡スキームの実務的優位性
建設業のM&Aで株式譲渡が選ばれやすい理由は、許認可の承継という一点に集約されます。
前述のとおり、事業譲渡では原則として建設業許可は引き継がれず、譲受会社が改めて申請・取得が必要となる場合が多くあります。許可の種類・工種によっては取得までに一定の時間を要し、その間は受注が止まるリスクがあります。一方、株式譲渡では法人格が維持されるため、許可も経審の点数も施工実績も原則としてそのまま存続します(役員変更等に伴う所定の変更届が必要な場合はあります)。公共工事の比率が高い建設会社ほど、このメリットは決定的です。
見落とされがちですが、経審の点数は単なる数字ではなく、長年の実績と財務健全性が積み重なった「見えない資産」です。経審の点数は毎年の決算と工事実績の申請によって維持・更新されるものであり、実績の積み上げが止まれば自動的に低下していきます。経営者が高齢化し、新規受注を絞り始めた段階で点数が下がると、その後のM&Aでの評価額にも直接影響します。この点数を取得側の企業が欲しいと考えるのは自然であり、それが建設業M&Aにおける譲受企業のニーズの実態につながります。
「うちには買い手がいない」という思い込みを疑う
建設業の経営者に根強いのが、「大手でも有名企業でもない自社に、M&Aの相手などいるはずがない」という先入観です。しかしこれは、M&Aの価値を売上規模や知名度だけで測る誤解から来ています。
譲受企業が建設会社に求めるのは、自社が持っていないものです。特定の工種の建設業許可、地域に根ざした顧客基盤、熟練した技術者チーム、公共工事入札に必要な経審の点数——これらは帳簿上の数字には表れません。たとえば管工事や電気工事など専門工事の許可を持つ会社は、総合建設業者がグループに取り込むことで工事の一括受注が可能になるため、規模を問わず戦略的価値を持ちます。また地方の元請けや自治体との長年の取引実績は、外部からは簡単に複製できない参入障壁でもあります。「何を持っているか」で価値が決まる——これが建設業M&Aの本質です。
業界特化コンテンツが持つ意味——汎用解説との決定的な差
M&Aに関する情報は、書籍・セミナー・Webコンテンツを問わず豊富に存在します。しかし多くは「株式譲渡とは」「デューデリジェンスとは」という一般論に留まり、特定業種の経営者が「自社の話」として受け取れる粒度に達していません。
建設業経営者が本当に知りたいのは、「経審の点数が高いと譲渡価格はどう変わるか」「建設業許可の工種が多い会社は買い手が広がるのか」「技術者が少ない会社はM&Aの対象になるのか」といった具体的な問いです。これらは業界を知らない専門家には答えられません。今回のシリーズが「汎用的な解説では届かない論点を補う」という立場を明確にしているのは、そのギャップへの正直な回答です。
今後の展開と経営者へのメッセージ
船井総研あがたFASは、建設業に続いて他の業種でも同様のシリーズを順次公開する方針を示しています。各回に共通するメッセージは明快です。譲渡を決めてからではなく、選択肢があるうちに自社の価値と判断軸を整理しておくこと——これが経営者に求められる行動です。
建設業においてこの早期着手が特に重要な理由は、経審の点数と密接に関係しています。経審の評価は直近の決算・工事実績をもとに毎年更新されるため、経営者が後継者問題に気づいて受注を絞り始めた段階で点数が低下し始めます。点数が落ちれば買い手にとっての魅力も下がり、条件交渉での選択肢も狭まります。また、社内の主要技術者が定年を迎える前のタイミングでM&Aの検討を始めることが、技術継承の面でも買い手にとってのリスク低減につながります。経審の更新時期や主要技術者の年齢構成を見ながら、具体的な着手タイミングを逆算することが、建設業経営者に求められる固有の視点です。
まとめ——建設業M&Aが今問われている理由
船井総研あがたFASのYouTubeシリーズ開始は、単なるコンテンツマーケティングの話ではありません。建設業界が今、技術者の世代断絶・後継者不在・許認可の複雑さという三重の課題を抱えながら、事業承継の判断を迫られている現実を映しています。
株式譲渡によって許認可や施工実績が原則として引き継がれるという特性は、建設業M&Aにおけるスキーム選択の重要性を際立たせます。そしてその価値は、経審の点数や技術者の在籍状況が維持されているうちにこそ最大化されます。業種に特化した専門家が実務の核心に踏み込む解説は、今まさに出口戦略を考え始めた建設業経営者にとって、判断の入り口となり得るコンテンツです。
Q&A
建設業のM&Aで株式譲渡が選ばれやすい理由は何ですか?
株式譲渡では法人格がそのまま存続するため、建設業許可・経営事項審査の点数・施工実績・顧客基盤が次の体制へそのまま引き継がれます。事業譲渡では譲受先が許可を改めて取得する必要があり、その間の受注リスクが生じるため、建設業では株式譲渡が実務上有利なケースが多くなります。
「うちは小さいからM&Aの相手はいない」と思っている経営者はどう考えればいいですか?
譲受企業が求めるのは売上規模や知名度だけではなく、自社が持っていない工種の許可、地域の顧客基盤、経審の点数など決算書に表れない価値です。特定の専門工事に強みを持つ会社や、地域の元請けと長年の信頼関係を築いている会社は、規模が小さくても明確な戦略的価値を持ちます。
船井総研あがたFASのYouTubeシリーズはどこで視聴できますか?
船井総研あがたFASの公式YouTubeチャンネルで公開されています。初回動画はプレスリリースに記載のURLから視聴可能です。
経営事項審査(経審)の点数はM&Aの譲渡価格に影響しますか?
経審の点数は公共工事の入札資格と直結しており、点数が高いほど大型案件への参加が可能になります。この点数は株式譲渡では引き継がれるため、公共工事比率が高い会社ほど譲受企業にとっての戦略的価値が高まり、企業価値評価にも影響し得ます。個別の評価額については専門家への相談が必要です。
建設業の後継者問題で従業員承継が難しくなる理由は何ですか?
建設業では土地・建物・車両といった有形固定資産が多く、簿価や株価が押し上げられやすい構造があります。そのため従業員が株式を取得するために必要な資金が大きくなり、内部昇格による承継が財務的に重くなるケースが多く見られます。


