東証スタンダード上場のTHE WHY HOW DO COMPANY株式会社(証券コード:3823)が、累計101件のM&Aを実行し現在61社のグループ会社を擁する株式会社Colors Japanとの業務提携を、2026年10月14日付の取締役会で決議しました。両社が目指すのは、後継者不在の中小企業の事業・雇用・技術を次世代に引き継ぐ「価値承継型M&Aプラットフォーム」の共同構築です。約35兆円と言われるM&A市場に対して、上場企業のガバナンスと現場主義の事業再生ノウハウを掛け合わせるこの試みは、中小企業M&Aの新たなモデルとして注目に値します。
THE WHY HOW DO COMPANYとはどのような企業か
THE WHY HOW DO COMPANYは、東証スタンダードに上場する企業です。同社が標榜するのは「人助け、第三の道M&A」という哲学。短期的な売却益を狙うのではなく、長期保有を前提として事業と雇用を守りながら会社を育てるスタンスを一貫して掲げています。
注目すべきは、同社が2026年5月26日に公表した中期経営方針です。①M&Aの連続実行、②戦略的業務提携、③AIバリューアップ、④新分野展開という4つの成長ドライバーを設定し、さらに「株主利益重視・EPS重視」を新たな戦略軸に据えています。今回の提携はこの方針の直接的な具現化です。
ただし同社自身が率直に認めているのは、従来手法だけでは「取得件数を着実に増やすことが難しい」という課題です。案件の発掘力、初期調査体制、取得後のPMI実行力——これらを補う「第二のエンジン」が必要だという認識が、今回の提携を生みました。
Colors Japanの強み——101件・61社が示す現場力
Colors Japanは2009年12月に設立された企業で、近年はM&Aによる事業承継と事業再生に特化しています。旅館、食品製造、設備工事、教育など業種を限定せず101件のM&Aを実行し、現在61社のグループ会社を運営しています(2026年9月現在)。Colors Japan単体の2026年4月期の業績は、売上高24億3,500万円、営業利益6億3,500万円です。
ここがポイントです。代表取締役・藤田精氏が自ら取得先企業の経営に加わり、現場に入ってPMI(Post Merger Integration=M&A成立後の経営統合)と経営改善を主導するというスタイルを取っています。コンサルタントが外部から助言するのではなく、経営者自身が現場で汗をかく——この泥臭さが101件という実績の背景にあります。
見落とされがちですが、101件のM&A実行に対して現在のグループ会社が61社という数字にも意味があります。単純に買い増すのではなく、再生・統合・一部整理というサイクルを回してきた実態が透けて見えます。
なぜ「不動産比重の大きい事業」を狙うのか
両社が共同で対象とするのは、後継者不在を抱える中小企業の中でも特に「不動産の比重が大きい事業」です。旅館、土地・工場・倉庫を自社保有する製造業などが典型例として挙げられています。
この設計には合理的な論理があります。事業収益だけで見ると承継の担い手が限られる企業でも、保有不動産を含めて安定収益を生む形に整えれば、金融機関からの借入を主な資金源として取得できるという構造が成り立ちます。つまり、新株発行による希薄化を抑えながらM&Aを連続実行できる。EPS(1株当たり利益)重視を掲げる上場企業にとって、これは非常に都合の良いスキーム設計です。
業界の常識を一つ疑ってみましょう。M&Aにおける「不動産比重の大きい企業は扱いが難しい」という通念があります。確かに事業と不動産を分離するには手間がかかります。しかし逆に言えば、その手間をかけられる実務ノウハウがあれば、競合が少ない分だけ割安に取得できる可能性があります。Colors Japanが蓄積してきた現場PMI経験は、まさにその「手間をかける力」です。
「価値承継型M&Aプラットフォーム」の仕組みを解剖する
プラットフォームの構造は明快な役割分担で設計されています。
- 案件発掘・初期調査・運営改善の検討:Colors Japanがネットワークと実務経験を活用して担当
- 取得判断:THE WHY HOW DO COMPANYが自社基準で独自に判断。取締役会決議が必要な案件はそれに従う
- 取得資金:金融機関からの借入を基本とし、資本効率・EPS重視の方針と整合させる
- 取得後の運営:安定収入(インカムゲイン)の確保を目指す
重要なのは、「本提携は当社に案件の取得を義務づけるものではない」と明記されている点です。Colors Japanが案件を持ち込んでも、THE WHY HOW DO COMPANYが独自基準で否決することは当然あり得ます。上場企業としてのガバナンスを損なわないための設計です。
また、インカムゲインに加えて「キャピタルゲインを含む新たな利益を生む構造」とも表現されています。取得した企業の価値を高めたうえで、一部を売却する出口戦略も視野に入れているとみるのが自然でしょう。
なぜ今この提携が生まれたのか——事業承継問題の切迫度
少子高齢化が進む日本では、後継者不在を理由に優れた技術や長い歴史を持つ中小企業が廃業を選ぶケースが後を絶ちません。特に地方の老舗企業でこの問題は深刻です。
約35兆円と言われるM&A市場という数字が参考ニュース内で繰り返し使われている点に着目してください。THE WHY HOW DO COMPANYがこの市場規模を成長戦略の根拠として強調しているのは、まだ同社が取れているシェアが限定的であることを自覚しているからです。市場の大きさではなく、そこへのアクセス手段を持てるかどうかが勝負——Colors Japanとの提携はまさにそのアクセス手段の獲得です。
また、Colors Japanが掲げる「地方創生、事業再生及び事業承継を通じて社会にとって存在意義のある会社を後世に残す」という使命は、THE WHY HOW DO COMPANYの「人助け、第三の道M&A」と哲学的に重なります。単なる利害の一致ではなく、思想の共鳴が提携の土台にある点は、長期的なパートナーシップの安定性という観点で重要です。
株主・投資家にとって何が変わるのか
THE WHY HOW DO COMPANYの株主にとって最も関心が高いのは、EPSへの影響でしょう。今回の提携は「株主利益重視・EPS重視」と明確に紐づけて説明されています。
借入による資金調達を基本とすることで新株発行による希薄化を回避し、取得した事業からのインカムゲインがEPSを押し上げる——この論理は整合的です。ただし、借入の増加はレバレッジリスクとセットです。取得した企業の収益改善が計画通りに進まなければ、財務負担が経営を圧迫する可能性は否定できません。
また、「取締役会の決議を要するものについては取締役会において決定」という記述は、個々の案件が取締役会の審査を通過しなければならないことを意味します。案件の件数が増えるほど審査の質を維持することが問われます。
リスクと懸念点——PMIの難しさを直視する
見落とされがちですが、M&Aの世界において最も難しいのは「取得後」です。PMIの失敗がM&A全体の価値を毀損するケースは珍しくありません。
Colors Japanが101件の実績を持つとはいえ、それはColors Japan単体の組織・カルチャーで運営してきた実績です。THE WHY HOW DO COMPANYという上場企業のガバナンス基準が加わる「共同プラットフォーム」での運用は、実質的に新しいモデルです。両社の意思決定スピードの違い、情報開示義務の範囲、内部統制の要件——こうした上場企業特有の制約とColors Japan流の現場主義がどう折り合うかは、今後の運用を見守る必要があります。
加えて、「個別の条件は今後定める」と明記されている点も無視できません。本基本合意書の段階では基本的な方向性が定まったに過ぎず、具体的な利益配分、費用負担、案件の優先順位付けなどは未確定です。
類似モデルとの比較——何が新しいのか
中小企業向けM&A支援は、仲介会社・FA(フィナンシャルアドバイザー)・事業承継ファンドなど複数のプレイヤーが参入している領域です。一般的な仲介モデルは「マッチングして手数料を取る」ところで完結しますが、今回の提携はその先——取得・運営・価値向上・出口まで一気通貫で担うことを意図しています。
事業承継ファンドとの違いも明確です。ファンドはあらかじめ設定した運用期間での売却を前提としますが、THE WHY HOW DO COMPANYは長期保有を基本方針としています。インカムゲインとキャピタルゲインの両方を視野に入れつつ、長期保有を原則とする——この「のりしろ」の広さが、このプラットフォームの特徴です。
上場企業が非上場の現場系M&A会社と組んでプラットフォームを構築するモデル自体は、2020年代前半から散見されるようになっています。ただし「不動産比重の高い中小企業の事業再生」という特定のニッチに絞り込んだ点に独自性があります。
今後の注目点——プラットフォームの実効性を測る指標
今回の発表は基本合意書の締結段階です。プラットフォームの実効性は、今後の具体的な案件実行数と取得後の収益貢献によって評価されます。
投資家・市場関係者が注視すべき指標は3つです。第一に、本提携を通じてTHE WHY HOW DO COMPANYが実際に取得を決定した案件の数と規模。第二に、取得後の企業が計画通りに安定収益を生んでいるかどうかのインカムゲインの実績。第三に、Colors Japanとの協業体制が上場企業のガバナンス基準を維持しながら機能しているかどうかです。
また、THE WHY HOW DO COMPANYが「案件取得を義務づけるものではない」と明言している以上、Colors Japanから提案を受けながら取得を見送るケースも当然発生します。その判断プロセスの透明性をどう確保するかも、投資家コミュニティからの信頼を左右します。
まとめ——「人助けM&A」を量的に拡張する試みの本質
THE WHY HOW DO COMPANYとColors Japanの業務提携は、哲学を共有する2社が互いの弱点を補い合う構造を持っています。上場企業のガバナンスと資金調達力、現場主義の事業再生ノウハウ——この組み合わせは論理的には説得力があります。
ただし、「基本合意書の締結」は出発点に過ぎません。「価値承継型M&Aプラットフォーム」が実際に機能するかどうかは、個別案件の積み重ねによってのみ証明されます。後継者不在に悩む中小企業経営者にとっては選択肢が増える可能性があり、THE WHY HOW DO COMPANYの株主にとってはEPS向上の新たなエンジンとなり得ます。この提携が単なる「絵に描いた餅」で終わるか、中小企業M&Aの新たなモデルケースになるか——今後の案件実行数と財務成果が答えを出します。
Q&A
「価値承継型M&Aプラットフォーム」では、具体的にどのような企業が買収対象になりますか?
後継者不在など事業承継の課題を抱える中小企業のうち、不動産の比重が大きい事業(旅館、土地・工場・倉庫を自社保有する製造業など)が主な対象です。適切に整えることで安定した収益が見込まれる事業を想定しており、案件によって不動産そのものを取得する場合と、不動産を保有する会社の株式を取得する場合があります。
今回の提携でTHE WHY HOW DO COMPANYは必ずColors Japanが持ち込んだ案件を取得しなければならないのですか?
いいえ、取得義務はありません。取得するか否か、および取得条件はTHE WHY HOW DO COMPANYが独自の基準で判断し、社内規程に従って(取締役会決議が必要な案件は取締役会で)決定します。
買収資金はどのように調達する予定ですか?新株発行による希薄化は起きますか?
取得資金は金融機関からの借入を基本とすることが想定されています。これにより新株発行による株式希薄化を抑え、資本効率・EPS重視の方針と整合した成長を目指す設計です。
Colors Japanはどれくらいの規模の会社ですか?
Colors Japanは2009年12月設立で、2026年9月時点で累計101件のM&Aを実行し61社のグループ会社を持ちます。Colors Japan単体の2026年4月期の売上高は24億3,500万円、営業利益は6億3,500万円です。
この業務提携はTHE WHY HOW DO COMPANYのどの経営方針と連動していますか?
2026年5月26日に公表した中期経営方針の4つの成長ドライバーのうち、「M&Aの連続実行」と「戦略的業務提携」を同時に推進するものと位置づけられています。また「株主利益重視・EPS重視」の戦略の一環でもあります。


