両備グループが2026年10月16日付け(プレスリリース記載)でグループ初となるM&Aアドバイザリー専門会社「Forustra Partners & Co.株式会社(フォルストラ)」を設立すると発表しました。投資銀行・証券会社・会計系ファームでFA業務に長年従事してきた中園章寛氏を代表取締役マネージングディレクターに据え、地方の大型コングロマリットが本格的なFA機能を外部市場へ開放するという、これまでにない形の新会社です。
- 両備グループとはどのような企業か——長い事業基盤が生む信頼性
- Forustra Partners & Co.の資本構成が示す戦略的意図
- 役員体制と中園章寛氏のFA経験——なぜこの布陣がキーパーソンなのか
- 「For you, Strategy」——社名に込められた差別化の思想
- FAとM&A仲介の違い——フォルストラが選んだビジネスモデルの本質
- 西日本市場への本格的なFA機能提供——なぜ今この需要があるのか
- グループ内の情報遮断——独立性を守る仕組みの重要性
- 主なサービスの射程——プロセス全体をカバーするFA機能
- 地方発FAファーム台頭の潮流——業界比較で見えるもの
- 今後の注目点——フォルストラが試される三つの論点
- まとめ——地方発・実業系FAファームが問いかけるもの
- Q&A
両備グループとはどのような企業か——長い事業基盤が生む信頼性
両備グループは創業から110年超の歴史を持つコングロマリットで(※創業年等の詳細は両備グループ公式サイトを参照)、交通運輸観光・ICT・不動産・生活関連事業など幅広い領域で事業を展開してきました。岡山を拠点に地域公共交通の維持・発展を担ってきた実績は、単なる経営資源の蓄積にとどまりません。地域密着型のネットワーク、行政・地域企業との長期的な信頼関係、そして複合事業グループならではのPMI(統合後管理)ノウハウが、今回のFA新会社の根幹を支えます。
注目すべきは、両備グループがこれまで自社のM&Aや企業再生を内部で積み上げてきた点です。地域公共交通に関わるM&Aや企業再生は、採算性の論理だけでは動かない複雑な案件が多く、その経験値は純粋な投資銀行では培いにくい種類の知見です。フォルストラはまさにその「実業者としての眼」をFA業務に持ち込む設計になっています。
Forustra Partners & Co.の資本構成が示す戦略的意図
新会社の資本金は100万円で、出資比率はプレスリリースによれば両備ホールディングス株式会社が60%、檉園株式会社が20%、AEP M&Aアドバイザリー株式会社が20%とされています。シンプルな数字ですが、ここに重要な含意があります。
両備HDが過半を握ることでグループのガバナンスと信用力を担保しつつ、M&A専門家サイドの出資も取り込んでいる。この構造は、グループの看板を使いながらも「専門家主導の独立したFAファーム」というポジションを確立するための工夫です。見落とされがちですが、FAビジネスにおいて「独立性の担保」は顧客獲得の生命線であり、情報遮断の仕組みとともに資本構成がそのメッセージを補強しています。
役員体制と中園章寛氏のFA経験——なぜこの布陣がキーパーソンなのか
フォルストラの代表取締役には松田敏之氏が就任しており、代表取締役マネージングディレクターとして中園章寛氏が業務執行の中核を担います。中園氏は投資銀行、証券会社、会計系ファームという三つの異なるプロフェッショナル環境でFA業務に従事し(具体的な在籍先・年数の詳細はプレスリリース原文を参照)、TOBをはじめとするあらゆるスキームの案件を助言してきた経歴は、一つの組織に留まった専門家とは質的に異なります。
FA業務において、スキームの引き出しの多さは直接的な提案品質に直結します。株式譲渡、第三者割当増資、株式交換、事業譲渡、TOB——それぞれのスキームが持つ税務上・法務上・交渉上の特性を知り尽くした上で「顧客にとって最適な一手」を選ぶ能力は、豊富な実務経験なしには身につきません。さらに中園氏は両備グループの投資戦略も担当しており、投資後の価値創出を見据えた助言という視点も持ち合わせています。この「ディールの出口まで見通す力」こそ、フォルストラが標榜する高付加価値助言の核心です。
「For you, Strategy」——社名に込められた差別化の思想
「Forustra」は「For you, Strategy(あなたのためのM&A戦略を)」を組み合わせた造語です。一見シンプルなネーミングですが、ここには明確な業界批判が内包されています。
大手投資銀行やM&A仲介会社が量的な案件処理を優先せざるを得ない構造的な圧力にさらされる中、フォルストラは「個々の案件に深く向き合う」ことを中核に据えました。顧客名を冠さず「あなたのための戦略」という普遍的な表現を社名に込めることで、特定業種・規模を問わず幅広い依頼者に寄り添う姿勢を打ち出している点は、「専門特化」を前面に出す競合FAファームとも一線を画します。M&A仲介とFAの最大の違いは、仲介が売り手・買い手双方を一社が担う利益相反リスクをはらむのに対し、FAは一方の当事者だけに完全に寄り添う点にあります。フォルストラが明示的に「FA業務」を掲げ、交渉戦略の立案と推進に注力する姿勢は、この社名の思想と一致しています。
FAとM&A仲介の違い——フォルストラが選んだビジネスモデルの本質
M&A市場には大きく二つのプレイヤー類型が存在します。FA(フィナンシャル・アドバイザー)とM&A仲介会社です。
- FA:売り手または買い手のどちらか一方を専属で代理し、顧客利益の最大化を最優先に交渉を担う。報酬体系も顧客サイドの成功報酬が基本。
- M&A仲介:売り手と買い手の双方から受任し、マッチングを促進する。取引の成立自体がゴールになりやすい構造的な特性を持つ。
ここがポイントです。近年、M&A仲介会社の双方代理モデルに対しては、業界団体や有識者を中心に利益相反リスクを指摘する声が高まっており、業界全体の構造的な課題として議論が続いています。フォルストラが「FAとして顧客利益を最優先に業務を遂行する」と明言していることは、こうした業界の転換点と無縁ではありません。
西日本市場への本格的なFA機能提供——なぜ今この需要があるのか
中園氏は「高品質な助言を西日本を含む全国のお客様に届けたい」と述べています。この言葉には、現在の市場構造への問題意識が滲みます。
大手FAの多くは東京・大阪に集中しており、地方中堅企業が本格的なFAサービスにアクセスするためには物理的・心理的な障壁がありました。一方で、後継者不在による事業承継ニーズや地域産業の再編ニーズは地方に集中しています。中小企業庁の調査では、今後10年で数十万社規模の中小企業が後継者問題に直面すると指摘されており、西日本・中国地方もその例外ではありません。両備グループが長年培ってきた西日本を中心とした事業基盤とネットワークは、この「需要と供給のギャップ」を埋める上で他にない強みです。
本社を東京都港区芝浦に置きながらも両備グループの地盤を活用するという設計は、首都圏の専門性と地方の信頼基盤を掛け合わせる狙いがあると推察されます。
グループ内の情報遮断——独立性を守る仕組みの重要性
新会社は両備グループの一員でありながら、「案件ごとの独立性を重視し、案件情報を厳格に管理し、グループ各社との間に適切な情報遮断措置を講じる」と明記しています。この一文の重さを軽く見てはいけません。
FAが顧客から受け取る非公開の経営情報や交渉戦略は、グループ企業が競合・取引先として関与する場合にコンフリクト(利益相反)を生じさせる可能性があります。フォルストラがあえてこの点を公表し、チャイニーズウォール的な情報管理の徹底を対外的にコミットすることは、信頼を商品とするFAファームとして事業の根幹を支える姿勢の表明です。具体的な情報遮断の運用体制(担当者分離の範囲や社内規程の整備状況等)については、今後の実績とともに注視する必要があります。
主なサービスの射程——プロセス全体をカバーするFA機能
フォルストラが提供するサービスは、M&Aにおけるフィナンシャル・アドバイザリー(FA)業務に特化しており、その内容はプロセス設計・ストラクチャー検討・定量条件検討・交渉戦略の立案および交渉助言をはじめとするプロセス全般支援に及びます。
ここで注目すべきは「交渉戦略の立案及び交渉助言」という文言です。バリュエーション(企業価値評価)の提供にとどまらず、交渉の現場で実際に動くことをサービスの中心に据えています。デューデリジェンス対応や価格交渉の現場で「手を動かす」FAファームの姿勢は、レポートを出して終わりの形式的なアドバイザリーとは一線を画します。
地方発FAファーム台頭の潮流——業界比較で見えるもの
地方の大手グループ企業が自社のM&AノウハウをFA機能として外部展開するモデルは、日本のM&A市場においてまだ珍しい形態です。レコフデータ等の公開統計によれば、国内M&A件数は近年増加傾向にある一方、FAが関与する案件は金額規模の大きい上場企業間取引に偏る傾向があり、中堅・中小企業向けのFA機能は長らく手薄な領域でした。
日本の企業数の大部分を占める中堅・中小企業のM&AニーズはM&A仲介会社が主に対応してきたのが実態です。ここにFA機能を本格的に持ち込むことは、単なる市場参入にとどまらず、日本のM&A市場全体の「助言品質」を底上げする動きとして評価できます。フォルストラの設立は、そうした市場の変化を先取りした動きとして位置づけることができます。
今後の注目点——フォルストラが試される三つの論点
新会社の行方を占う上で、三つの点を注視する必要があります。
- 案件の独立性確保の実効性:グループ企業とのコンフリクト管理が実際に機能するかどうか。情報遮断の仕組みが形式にとどまらず、運用レベルで機能することが顧客の信頼獲得の前提条件です。
- 西日本での案件獲得力:「西日本を含む全国」という方針が実際の案件実績に結びつくかどうか。両備グループのネットワークを活かして地方の経営者層にリーチできるか、初期フェーズの案件獲得が試金石になります。
- 少数精鋭体制での品質維持:公開情報の範囲では少数精鋭の体制とみられるフォルストラが、どの規模・複雑度の案件を対象とするかの選択が経営判断の核心になります。体制の拡充タイミングと案件品質のバランスを保てるかが中長期の課題です。
まとめ——地方発・実業系FAファームが問いかけるもの
Forustra Partners & Co.の設立は、日本のM&Aアドバイザリー市場に対して一つの問いを投げかけています。「本当に顧客の利益を最大化するFAとは何か」という問いです。
100年超の事業経験を持つ地方コングロマリットと、複数のプロフェッショナル環境でFA実務を積んだ専門家の組み合わせは、東京の大手FAとは異なる価値軸でのサービスを可能にします。地域企業の経営者が「東京の論理」ではなく「自社の実情に寄り添った助言」を求めるとき、フォルストラはその選択肢の一つになり得ます。M&A市場の「助言品質」と「地域格差」という二つの課題に正面から向き合う新会社の動向は、業界全体にとって注目に値します。
Q&A
Forustra Partners & Co.(フォルストラ)はどのような会社ですか?
両備グループが2026年10月16日に設立したM&Aアドバイザリー専門会社です。フィナンシャル・アドバイザー(FA)として売り手または買い手の一方に寄り添い、プロセス設計から交渉戦略立案・交渉助言まで一貫して支援します。本社は東京都港区芝浦に置いています。
M&A仲介会社とFAファームは何が違うのですか?
M&A仲介会社は売り手と買い手の双方を一社が担うのに対し、FA(フィナンシャル・アドバイザー)は一方の当事者だけを専属で代理し、その顧客の利益を最大化することを最優先に動きます。フォルストラはFAとして顧客利益を最優先に業務を遂行すると明言しています。
フォルストラと両備グループの関係は?グループ案件への情報漏洩リスクはありますか?
両備ホールディングスが60%を出資する子会社ですが、案件ごとの独立性を重視し、グループ各社との間に適切な情報遮断措置を講じると明記されています。アドバイザーとして顧客利益を最優先に業務を遂行する方針です。
フォルストラはどのような企業の相談を受け付けていますか?
企業価値向上や成長戦略の実現に向けたM&A、資本再構築、事業承継、業界再編を検討する企業が対象です。西日本を含む全国の企業に高品質なFA助言を届けることを目指しています。
代表取締役マネージングディレクターの中園章寛氏はどのような経歴を持っていますか?
投資銀行、証券会社、会計系ファームで22年にわたりM&AのFA業務に従事し、TOBをはじめとするあらゆるスキームの案件を助言してきた経歴を持ちます。また、両備グループの投資戦略も担当しており、投資後の価値創出を見据えた助言も可能です。


