欧州大手PEファンドEQTが2025年7月、エレベーターメーカー・フジテックに対し1株5,700円、総額4,000億円超でTOB(株式公開買付)を発表しました。本記事では、買付条件・バリュエーション・アクティビスト対応・今後のスケジュールまで詳しく解説します。
フジテックとは
フジテック株式会社(TSE:6406)は滋賀県彦根市に本社を置く独立系エレベーター・エスカレーターメーカーです。1948年創業、国内シェア約15%で三菱電機・日立製作所・東芝エレベータに次ぐ第4位を占めています。売上構成は新設ビジネス40%、保守サービス60%で、メンテナンス契約数は世界24市場で約18万台。近年はIoT遠隔監視「Fujitec Pulse」を強化し、利幅の高い保守サービス比率が上昇しています。
TOB概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 買付者 | EQT AB グループ(BPEA Private Equity Fund IX) |
| 買付価格 | 1株5,700円 |
| プレミアム | 過去1か月加重平均株価比 +16.8% |
| 買付期間 | 2025/08/05〜2025/09/24(予定) |
| 取得予定株数 | 普通株式85%(1億1,400万株) |
| 買付総額 | 約4,000億円(260億USD) |
| 残余株主 | 創業家(内山家)が15%を保有し共同投資家に |
EQTはTOB成立後、東証プライム市場での上場廃止を進め、完全子会社化後にグローバル拠点拡大とDX投資を加速すると表明しています。(reuters.com)
提案価格の妥当性
バリュエーション比較
| 指標 | フジテック(TOB後) | 日立ビルシステム* | 三菱電機ビルテック* |
|---|---|---|---|
| EV/EBITDA | 12.7倍 | 11.2倍 | 10.9倍 |
| P/E (FY24実績) | 24.1倍 | 22.0倍 | 21.4倍 |
| 配当利回り | 1.1% | 2.0% | 1.8% |
*非上場子会社で親会社決算データから算出
同業平均を上回る水準ながら、グローバルOEM(Otis, KONE)の約14〜16倍と比べればディスカウントが残ることから、アクティビストは追加プレミアムを要求する余地があると見られます。
アクティビストの動向
香港系ヘッジファンドOasis Managementは2022年以降、フジテック株式30%を保有し経営改革を主導してきました。OasisはTOB発表直後「オファーは過小」と声明を発表し、6,500円以上への引上げを要求しています。交渉が不調になればホワイトナイト出現やTOB期間延長の可能性があります。
ガバナンス改善と訴訟リスク
フジテックは2023年から社外取締役比率を過半に引き上げ、監査等委員会設置会社へ移行しましたが、Oasisは「創業家影響力が依然強い」と批判していました。EQTによる買収後は、海外PEのベストプラクティスに基づき指名・報酬委員会の完全独立化とサステナビリティKPI連動報酬を導入予定としています。
一方、TOB価格を巡り株主代表訴訟リスクがあるため、EQTはモルガン・スタンレーとKPMGを共同FAに起用し、フェアネスオピニオンを取得しました。
買収の狙い
- 保守サービスの収益最大化
- グローバル保守契約を25万台へ拡大し、EBITDAマージンを20%→25%に改善。
- デジタル化とリカーリングモデル強化
- IoTセンサーとAI予知保全を標準搭載し、追加月額10ドルのサブスクリプションを展開。
- 新興国市場への拡大
- インド、ASEANで販売代理店を買収し、2028年度までに新設台数を年間30,000台へ倍増。
- M&Aプラットフォーム化
- 欧州ローカルメンテナンス会社をロールアップし、スケールシナジーを創出。
今後のスケジュールと留意点
- 2025/08/05 TOB開始公告
- 2025/09/24 買付終了/結果公告
- 2025/09/30 決済開始
- 2025/10/15 スクイーズアウト手続開始予定(株式併合)
- 2025/11月上旬 東証上場廃止
TOB期間中に競合提案(ホワイトナイト)が出た場合、買付期間は原則10営業日延長されます。また、改正MBO規制と同様、独立委員会報告書全文が東証に提出され開示されるため、株主はTOB価格妥当性を精査できます。
ケーススタディ:過去の同業買収比較
| 取引 | 売手 | 買手 | EV/EBITDA | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2021 | Thyssenkrupp Elevator (Germany) | Advent+Cinven | 17.0倍 | 業界最高マルチプル |
| 2022 | Hitachi Building Systems (Japan) | Hitachi→KKR 50% | 12.5倍 | JV方式 |
| 2023 | Schindler China JV Stake | Schindler→CDH | 13.4倍 | 新興国成長ドライバー |
| 2025 | Fujitec | EQT | 12.7倍 | プレミアム16.8% |
業界平均に近い水準だが、欧州大型案件には及ばず、追加価格交渉余地があるとアナリストは指摘しています。
資金調達ストラクチャー
EQTはBPEA Fund IX(目標140億USD)のうち約20億USDを本件に充当し、残額をシニアローンとメザニンでファイナンスします。ローンアレンジャーは三菱UFJ銀行とSMBC日興証券で、LTVは60%を想定。保守契約の安定キャッシュフローが担保評価の鍵となります。
まとめ
フジテックへのEQTによるTOBは、日本PE市場最大規模のエレベーター業界案件として注目を集めています。提案価格5,700円は同業に比べ妥当水準とされるものの、30%を握るアクティビストOasisがさらなる引上げを要求しており、プレミアム競争へ発展する可能性があります。
買収が成立すれば、非公開化による迅速な意思決定でDX投資と海外展開が加速し、保守サービスのリカーリング収益モデルが強化される見込みです。一方、少数株主にとってはTOB価格と手続きの透明性がリターンを左右します。独立委員会報告書やフェアネスオピニオンを精読し、キャッシュ・フロー創出力や他社マルチプルと比較して応募可否を判断することが重要です。
日本企業のガバナンス改革と海外PEの大型買収が交錯する本件は、2025年以降のTOBルール実効性と株主アクティビズムの行方を占う試金石となるでしょう。


