減損テストとは、企業が保有する資産の価値が著しく低下している可能性がある場合に、その資産の実際の回収可能額を確認するプロセスです。具体的には、帳簿価額(簿価)と回収可能額を比較し、帳簿価額が回収可能額を上回っている場合に、その差額を減損損失として計上します。
減損テストの目的
- 資産価値の適正性を評価することで、財務諸表の信頼性を保つ。
- 過大評価された資産を適正な価値に引き下げることで、投資家や利害関係者への透明性を確保。
- 不採算事業や非効率な資産の整理を促進。
減損テストの流れ
- 減損の兆候の判定
- 資産価値が低下している兆候がある場合、減損テストを実施します。
- 兆候例:
- 市場価値の大幅な下落。
- 使用頻度の減少や遊休状態。
- 将来キャッシュフローの大幅な減少見込み。
- 法的規制や市場環境の悪化。
- 資産グループの識別
- 資産を個別またはグループ化(例:特定の事業単位)して評価します。
- 回収可能額の測定
- 資産の回収可能額は以下のいずれか高い方を採用します:
- 正味売却価額:資産を売却した場合の見積額(売却額から処分費用を控除)。
- 使用価値:資産を今後利用して得られるキャッシュフローの現在価値。
- 資産の回収可能額は以下のいずれか高い方を採用します:
- 減損損失の計上
- 帳簿価額が回収可能額を上回っている場合、その差額を減損損失として計上し、帳簿価額を引き下げます。
減損テストの計算例
例1:工場設備の減損
- 状況:
- 帳簿価額:15億円
- 回収可能額:
- 正味売却価額:10億円
- 使用価値(将来キャッシュフローの現在価値):8億円
- 判断:
- 回収可能額は高い方の10億円。
- 減損損失の計上:
- 減損損失 = 15億円(帳簿価額) − 10億円(回収可能額) = 5億円
例2:のれんの減損
- 状況:
- 判断:
- 回収可能額 = 使用価値 = 12億円。
- 減損損失の計上:
- 減損損失 = 20億円 − 12億円 = 8億円
減損テストが求められるタイミング
- 決算時
- 通常、決算期末において減損テストを実施します。
- 特に、のれんや無形資産など、目減りしやすい資産は定期的にチェックされます。
- 減損の兆候がある場合
- 不採算事業の兆候が出たとき。
- 市場環境が大きく変化したとき(競争激化、法規制の影響など)。
- M&A後
- 買収した企業や事業の価値が期待を下回った場合、特に「のれん」に対して減損テストを行います。
減損テストのメリットと課題
メリット
- 財務情報の透明性向上
- 資産価値を適正に評価し、投資家や取引先の信頼を維持できる。
- 経営の健全化
- 減損損失を計上することで、不採算事業や非効率資産を整理するきっかけになる。
- ステークホルダーへの信頼性確保
- 資産評価の適正化が、企業の説明責任(アカウンタビリティ)に寄与。
課題
- 主観的要素が含まれる
- 使用価値やキャッシュフローの見積もりは、企業の判断に依存するため、主観的要素が強い。
- 業績への影響
- 減損損失の計上は、特別損失として業績に直接影響する。
- 計算の複雑さ
- 回収可能額の算定には、将来のキャッシュフローや割引率の設定など専門的な知識が必要。
減損テストの対象資産
- 有形固定資産
- 工場、設備、土地、建物など。
- 無形資産
- 商標権、特許権、ソフトウェアなど。
- のれん
- M&Aで取得した企業のブランドや顧客基盤など。
減損テストと企業経営
減損テストは、単なる会計処理にとどまらず、経営判断や事業戦略にも直結します。例えば、減損の兆候が出た段階で、不採算事業の撤退や資産売却を検討することが求められる場合もあります。
経営者にとっては、減損テストの結果を冷静に受け止め、将来の事業戦略や資産活用方針を見直す機会として活用することが重要です。
まとめ
減損テストは、企業の資産価値を適正に評価し、財務諸表の信頼性を確保するための重要なプロセスです。特に、経営環境の変化が激しい時代においては、減損テストを通じて適切な資産管理と経営判断を行うことが求められます。
このプロセスを的確に実施することで、投資家や利害関係者に信頼される企業経営を実現することが可能になります。


