この記事は、法人解散・清算をスムーズに進めるための完全ガイドです。定款変更から株主総会決議、清算人選任、債権者保護手続、残余財産分配、清算結了届出まで、2025年会社法改正・電子登記規則最新情報を反映し徹底解説します。税務署・法務局・年金機構への届出、e-Tax/LTAX(法務省オンライン申請)の実務をご担当の方も必見です。
法人解散・清算とは?
法人解散とは、会社が「事業活動を終了し、清算手続きへ移行する」法的状態を指します(会社法第471条)。解散後、会社は“清算株式会社”に移行し、清算人の管理下で資産の換価・債務弁済を行い、残余財産を株主へ分配のうえ消滅します。清算を経ずに事業を停止するだけでは、法人格は残存し、税務・登記・社会保険義務が継続するため注意が必要です【参考: 法務省商事部「商業登記ハンドブック2025」】。
解散・清算を選択する5つの理由
- 事業モデルの陳腐化: 赤字継続で事業継続価値が消失。
- M&A後の統合作業: グループ再編で不要子会社を整理(スクイーズアウトも併用)。
- 事業承継失敗: 後継者不在により法人格を閉じ、個人資産へ移行。
- 法令違反リスク回避: 休眠会社のまま放置するとみなし解散登記で強制解散。
- 節税・コスト削減: 税務申告・社会保険維持費用を削減。
解散の類型と法的根拠
| 類型 | 根拠法 | 主な要件 | 期間 |
|---|---|---|---|
| 通常解散 | 会社法471条1号 | 株主総会の特別決議 | 約6〜12か月 |
| 任意解散(LLP等) | 民法・各特別法 | 社員全員の同意 | 3〜6か月 |
| 特別清算 | 会社法570条 | 債務超過恐れ等、裁判所許可 | 4〜8か月 |
| 破産手続 | 破産法 | 支払不能・債務超過 | 1〜2年 |
解散決議から清算開始までの手順
株主総会の開催
- 特別決議(議決権の2/3以上)で解散を決定。
- 清算人の選任・清算方法(自己清算/特別清算)を同時決議。
解散届出書の提出
- 税務署: 解散日から1か月以内に「法人異動届出書」「解散届出書」。
- 都道府県・市町村: 事業所所在地に法人県民税・市民税の異動届。
解散登記
- 解散総会議事録・清算人就任承諾書を添付し、法務局に「解散及び清算人選任登記」申請(申請期限: 2週間)。
- 2025年の商業登記規則改正により、LTAXオンライン登記が可能(登記・供託オンラインシステム v4.5)。
清算人の選任・権限・義務
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 選任方法 | 定款又は株主総会特別決議。取締役が自動的に就任可(会社法478条)。 |
| 主な権限 | 資産処分、債務弁済、訴訟当事者、残余財産計算。 |
| 義務 | 債権者保護手続、清算報告書作成、帳簿保存(10年間)。 |
| 報酬 | 定款で定めていない場合、株主総会で決定(会社法481条)。 |
清算人のリスク
- 過失により債務弁済漏れがあった場合、個人責任を問われる(会社法478条3項)。
- 法人税滞納時は第二次納税義務(国税徴収法)を負う可能性。
解散登記と清算結了登記(eLTAX/LTAX)
- 解散登記: 申請書様式第30号。登録免許税は資本金×0.7%(最低3万円)。
- 清算結了登記: 官報公告満了+債務弁済完了後に提出。登録免許税2万円固定。
- 電子署名: マイナンバーカード又は商業登記ICカードで可。添付書類はPDF(署名付)アップロード。
- 審査期間: 解散登記3〜5営業日、結了登記5〜10営業日(2025年5月法務省統計)。
債権者保護手続
| ステップ | 期限 | ポイント |
|---|---|---|
| 官報公告 | 解散後すみやかに | 1か月以上の債権申出期間を設定(会社法499条) |
| 個別催告 | 既知の債権者には個別通知(書留等) | 解散後すみやかに |
| 異議の申出 | 申出期間中に債権者が届出 | 支払確定または供託で対応 |
TIP: 2025年7月以降、電子官報APIで公告証明書をPDF取得し、法務局登記申請に添付可能。
資産処分・債務弁済フロー
- 売掛金回収 → 貸倒見積計上(税務)。
- 在庫・固定資産売却 → 消費税・譲渡所得計算。
- 債務弁済 → 順位: 国税 > 社会保険料 > 一般債権。
- 未払給与清算 → 労基署へ賃金立替払制度申請可。
税務
解散確定申告
- 解散日から2ヶ月以内。課税期間は期首〜解散日。
- 欠損金は「解散欠損金」として清算所得へ繰越可(法人税法81条)。
清算確定申告
- 清算事業年度終了毎(年1回)。
- 資産譲渡益・配当所得・清算所得を計上。
清算結了申告
- 結了日から1ヶ月以内。残余財産はみなし配当課税(所得税源泉20.42%)。
2025年改正: e-Tax「清算法人特例電子申告」が開始、法人税・消費税・地方法人税一括送信可。
社会保険・労働保険
| 届出 | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 事業所全喪届(厚生年金) | 日本年金機構 | 清算開始日から5日以内 |
| 雇用保険適用事業所廃止届 | ハローワーク | 10日以内 |
| 労災保険 廃止届 | 労基署 | 10日以内 |
残余財産確定と配当手続き
- 債務完済後、残余財産計算書を作成(貸借対照表形式)。
- 株主総会で承認→配当払出。
- 配当に対し20.42%源泉徴収、翌月10日までに納付。
特別清算・破産手続きとの比較
| 区分 | 通常清算 | 特別清算 | 破産 |
|---|---|---|---|
| 主体 | 株主主導 | 裁判所主導 | 裁判所・管財人 |
| 債務超過 | 原則なし | 可能 | 必須 |
| 期間 | 6〜12ヶ月 | 4〜8ヶ月 | 1〜2年 |
| コスト | 登記・公告費+専門家費用 | 追加で裁判所費用 | 管財人報酬+裁判費用 |
清算結了までのタイムライン例(通常清算)
下記は資産・負債が少なく債務超過のない中小企業が「2025年7月1日」を解散日として通常清算を行う場合の代表的なスケジュールです。実際の所要期間は債権者数や資産換価状況により変動しますが、目安は6〜8か月です。
| 時期 | 手続き | 提出・対応先 | 重要ポイント |
| 7/1 (Day‑0) | 株主総会で解散決議・清算人選任 | 会社内部 | 特別決議(議決権2/3以上)/清算人報酬決定 |
| 解散総会後7日以内 | 解散登記申請 | 法務局(LTAX可) | 登録免許税=資本金×0.7%(最低3万円) |
| 解散後2週間以内 | 法人解散届出書・異動届 | 税務署/都道府県・市区町村 | e-Tax+地方税Webで一括可 |
| 7/10 | 官報公告原稿入稿 | 官報販売局 | 債権申出期間「2か月」を設定 |
| 7/18 | 官報掲載開始 | ー | 電子官報のPDFを保存(登記添付用) |
| 7/18〜9/17 | 債権申出期間 | 債権者 | 個別催告は書留or内容証明で発送 |
| 9/18 | 資産換価・債務弁済開始 | 清算人 | 売掛金回収/在庫売却/租税優先弁済 |
| 11/15 | 残余財産確定 → 配当案作成 | 清算人 | 議決権割合に応じ配当計算書を作成 |
| 11/30 | 残余財産分配・配当実施 | 株主 | 源泉税20.42%控除/翌月10日まで納付 |
| 12/10 | 清算報告書承認株主総会 | 会社内部 | 清算結了決議(普通決議可) |
| 決議後14日以内 | 清算結了登記申請 | 法務局 | 登録免許税2万円固定/電子登記可 |
| 登記完了後1か月以内 | 清算結了確定申告・残余財産確定申告 | 税務署 | e-Tax「清算法人モード」で一括送信 |
| 12/末 | 法人格消滅 | ー | 登記事項証明書で「解散・清算結了」確認 |
ワンポイント: 官報公告+個別催告を「解散日から10営業日以内」に実施すると、債権者保護期間終了が早まり、全体期間を短縮できます(ただし公告期間そのものの短縮は不可)。
よくある質問(FAQ)
Q1: 債権者が現れなかった場合、残余財産はいつ確定?
A: 官報公告+1か月経過後、かつ既知債権者へ個別催告を実施していれば確定できます(会社法500条)。
Q2: 解散から清算結了までは最短でどのくらい?
A: 債務超過がなく、資産が少ない場合は約4か月で可能。債権者保護期間を短縮する特例は存在しません。
Q3: 未払い法人税がある場合は?
A: 清算人は国税を優先弁済する義務があり、納付遅延で延滞税が発生。最終申告と同時納付が推奨。
Q4: 清算人が途中で辞任したい場合は?
A: 株主総会決議または裁判所の許可が必要(会社法489条)。新清算人選任登記を2週間以内に行います。
Q5: 資本金1円の会社でも登録免許税は安くなる?
A: 解散登記は資本金×0.7%ですが最低3万円、清算結了登記2万円は固定。資本金額に関係なく最低額が適用。
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まとめ
法人解散・清算は「登記」「税務」「社会保険」「債権者保護」の4領域が複雑に絡み、漏れが生じると清算人が個人責任を負うリスクがあります。2025年改正により電子登記・e-Taxが整備され、オンライン完結が現実的になりましたが、官報公告や個別催告など紙ベースの手続が残存します。本ガイドのタイムラインとチェックリストを活用し、計画的に解散・清算プロジェクトを進めましょう。
解散・清算は“最終章”ではなく“新たな経営戦略の一手”です。リスクを最小化し、価値を最大化するために、正しいフローとスケジュール管理が不可欠です。


