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スカイダンス・メディアがパラマウント・グローバルを買収

M&Aニュース

2025年8月7日、米エンターテインメント業界に大きな衝撃が走りました。映画制作やテレビ放送を手がける巨大メディア企業であるパラマウント・グローバルが、スカイダンス・メディアに正式に買収され、新会社「Paramount Skydance Corporation」として再出発したのです。買収総額は約80億ドル(日本円で約1兆1,800億円)とされ、CEOにはスカイダンス創業者のデヴィッド・エリソン氏、社長には元NBCユニバーサルCEOのジェフ・シェル氏が就任しました。

ティッカーシンボル「PSKY」でナスダック市場に上場した新会社は、映画・放送・ストリーミングを柱に据えた「次世代型メディア企業」として注目を集めています。しかし、この統合は単なる資本取引ではなく、業界全体の勢力図を大きく塗り替える出来事となっています。


買収に至るまでの背景

スカイダンス・メディアは2006年にデヴィッド・エリソン氏が設立した制作会社です。設立当初からパラマウントと密接な関係を築き、「ミッション:インポッシブル」シリーズや「トップガン マーヴェリック」といった世界的なヒット作を共同で手がけてきました。両社の協業関係は強固であり、今回の買収は「自然な流れ」とみる業界関係者も多くいます。

一方のパラマウント・グローバルは近年、苦境に立たされていました。NetflixやDisney+といった競合の台頭によって、Paramount+はコンテンツ不足と規模の小ささから伸び悩み、ケーブルテレビ部門の収益は減少を続けていました。こうした状況から、新たな資本とクリエイティブ力の導入が不可欠であり、スカイダンスとの合流は「生き残りのための戦略」と位置づけられました。


買収合意と規制当局の承認

両社が合併方針を発表したのは2024年7月のことでした。買収は二段階で進められ、まずスカイダンス側がパラマウントの親会社であるナショナル・アミューズメンツの株式を取得し、その後にパラマウント本体との合併が行われました。最終的に新会社の評価額は約280億ドルに達したとされています。

しかし、統合には米国連邦通信委員会(FCC)の承認が必要でした。FCCは2025年7月24日に承認を下しましたが、その際には条件が付されました。報道部門の編集権の独立を保証するための第三者機関の設置、政治的中立性の担保、そして多様性・公平性・包括性(DEI)プログラムの廃止です。これらの条件は政治的な圧力を反映したものと指摘され、報道の自由や企業文化への影響を懸念する声が広がりました。


新会社「Paramount Skydance」の体制

2025年8月7日、買収完了とともに誕生した新会社「Paramount Skydance Corporation」は、三つの主要部門を軸に再編されました。

  1. スタジオ部門
    映画やテレビ番組の制作を担います。スター・トレックやトランスフォーマーなどの人気シリーズを再開発し、年間の映画制作本数を増やす方針です。
  2. ダイレクト・トゥ・コンシューマー(DTC)部門
    Paramount+を中心にストリーミング事業を展開します。インターフェースの刷新、AIを活用したレコメンド機能強化、オリジナル作品の投入などが進められます。
  3. テレビメディア部門
    CBSを中心とする放送ネットワークやケーブル局を管轄します。急激な縮小はせず、収益性を維持しながら効率化を進める方針です。

エリソンCEOは「パラマウントを再び創造性の中心に戻す」と強調し、制作現場の強化を最優先課題に掲げています。


新戦略:映画・スポーツ・AIの三本柱

新会社が掲げる戦略には、従来の映画事業の拡大に加え、スポーツやAIといった新たな柱が盛り込まれています。

  • 映画制作の拡大
    大作映画の公開頻度を増やし、世界市場でのシェア拡大を目指します。既存シリーズの続編に加え、オリジナル作品の開発にも注力する方針です。
  • スポーツ中継の強化
    UFCの放映権を獲得し、スポーツコンテンツをParamount+の主力に据えます。ライブ配信需要を取り込み、安定した視聴者基盤の確立を目指しています。
  • AIの活用
    視聴者の好みに合わせたレコメンド機能、脚本支援、映像編集の効率化などにAIを活用します。制作と配信の両面で新たな価値を提供し、次世代型メディア企業への進化を図ります。

レイオフと組織改革の影響

華やかな戦略の裏側では、大規模な人員削減も進められています。買収後すぐに数千人規模のレイオフが計画され、2025年11月までに実施される見込みです。主な対象はケーブル部門や管理部門とされ、従業員や労働組合からは不安と反発の声が上がっています。

経営陣は「人員整理は避けられない」と説明し、長期的な競争力を維持するために必要な措置だとしています。しかし、現場からは「士気低下や人材流出につながるのではないか」との懸念もあり、短期的なコスト削減と長期的な創造性の維持とのバランスが問われています。


政治的波紋と批判

今回の買収は、企業統合を超えて政治的な議論を引き起こしました。FCC承認の過程で、前政権関係者が影響を及ぼしたのではないかという疑惑が浮上し、議会では調査を求める声が上がっています。また、報道番組の打ち切りや有名キャスターの降板などが続き、「政治的圧力の影響ではないか」との指摘が絶えません。

さらに、DEIプログラムの廃止は米国内の多様性推進運動に逆行するものとされ、市民団体や大学から強い反発が起きています。企業イメージに与える悪影響は無視できない課題となっています。


株式市場と投資家の反応

新会社「Paramount Skydance」は上場直後に株価が急騰し、市場からの期待を集めました。投資家は積極的な経営戦略と新体制に好意的な姿勢を示したのです。しかし、制作費の高騰やストリーミング競争の激化といった課題を考えると、今後の株価動向は不透明です。期待に応える成果を出せるかどうかは、経営陣の手腕にかかっています。


今後の展望

スカイダンスによるパラマウント買収は、単なるM&Aではなく、ハリウッド再編の象徴的な出来事となりました。映画制作力とテクノロジーを融合させ、スポーツやAIといった新分野に挑む戦略は、次世代型メディア企業への道を切り開く可能性を秘めています。

一方で、大規模リストラや政治的影響といったリスクは依然として大きく、成功への道は容易ではありません。今後数年間で「Paramount Skydance」がどのように既存資産を活かし、革新的なコンテンツを提供できるかが、業界全体の行方を占う試金石となるでしょう。

この記事を書いた人
MANDA編集部 森田

なにかと課題の多いM&A業界を民主化し、日本の未来を大きく左右する「事業承継問題」を解決することが、私たちのミッションです。M&Aをこれから始める方から、M&Aのプロフェッショナルの方まで、M&A周りを判りやすく丁寧に解説します。

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