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資生堂が「ドランクエレファント」を買収してから現在まで:成功と苦悩を徹底分析

M&Aの業界別情報

2019年10月、資生堂がアメリカのスキンケアブランド「ドランクエレファント(Drunk Elephant)」を約8.45億ドルで買収したニュースは、世界の美容業界に大きな話題をもたらしました。ドランクエレファントは“クリーンビューティー”の代表格として急成長中のブランドであり、ミレニアル世代やZ世代から圧倒的な支持を得ていたため、買収は資生堂のグローバル戦略における重要な一手と位置づけられました。

しかし、買収から6年が経過した現在、ドランクエレファントは資生堂グループの収益を押し上げるどころか、一部の決算では「業績の重荷」として言及されるまでに至っています。

本記事では、資生堂とドランクエレファントが辿った軌跡と今後の展望を詳しく解説します。


  1. 買収前のドランクエレファント:急成長ブランドの誕生と背景
    1. ブランドを急成長に導いた特徴
  2. 資生堂が買収に踏み切った理由
    1. 北米市場での存在感強化
    2. “クリーンビューティー”市場への本格参入
    3. プレミアムスキンケア事業の強化
  3. 買収後の初期(2019〜2021年):順調なスタートと高まる期待
    1. 好調要因
  4. 2022〜2023年:競争激化とブランド勢いの鈍化
    1. クリーンビューティーブランドの急激な増加
    2. 価格帯が高く景気変動の影響を受けやすい
    3. SNS戦略の失速
  5. 2024〜2025年:ドランクエレファントの売上が失速、資生堂の決算に影響
    1. 米州(Americas)事業での苦戦
    2. 旅行小売(TR)チャネルの落ち込み
    3. 在庫増加と生産調整
    4. 資生堂グループ全体の損益を圧迫
  6. なぜドランクエレファントは失速したのか?根本要因を分析
    1. ブランドポジショニングの曖昧化
    2. SNS・インフルエンサー戦略の頭打ち
    3. 高価格帯ゆえの購入ハードル
    4. 製品数が増えすぎたことによる混乱
    5. 買収後の統合(PMI)の難しさ
  7. 資生堂は何をしているのか:ブランド再建のための具体的施策
    1. ブランドの「再エンゲージメント」
    2. SKU整理と商品のスリム化
    3. サプライチェーン改革
    4. 販売チャネルの最適化
    5. ブランドを象徴する新商品の投入
  8. それでもドランクエレファントに可能性が残されている理由
    1. 理由1:ブランド認知が依然として高い
    2. 理由2:成分クオリティは未だトップレベル
    3. 理由3:クリーンビューティー市場は成熟しても消失しない
    4. 理由4:グローバル展開の余地が大きい
  9. 今後の方向性:ドランクエレファントはどう再成長するか?
    1. ブランドストーリーの再構築
    2. 商品ポートフォリオの刷新
    3. 販売戦略の再定義
  10. まとめ:買収劇の“今”は苦戦。しかし未来はまだ閉ざされていない

買収前のドランクエレファント:急成長ブランドの誕生と背景

ドランクエレファントは2012年にアメリカで誕生したスキンケアブランドです。創業者ティファニー・マスターソン氏が、自身の肌トラブルと長年向き合う中で「本当に肌に必要なものだけを入れる」という発想からスタートし、短期間で急成長を遂げました。

ブランドを急成長に導いた特徴

  1. “クリーンビューティー”を先取り
     パラベンや鉱物油、シリコンなど、肌への刺激が懸念される成分を排除した処方で、当時のトレンドをリードしました。
  2. 鮮やかなパッケージとSNS訴求の強さ
     インフルエンサーによる投稿と相性が良く、InstagramやYouTubeで口コミが爆発。
  3. 高価格帯でも納得される機能性
     1アイテム1万円前後でも売れ続け、「高品質×クリーン」というポジショニングを確立。
  4. 米国セフォラでの大型展開に成功
     若年層を中心に“指名買い”“まとめ買い”が定着。

まさに、時代性・ブランド性・マーケティングがすべて揃ったブランドでした。


資生堂が買収に踏み切った理由

資生堂がドランクエレファントを買収した理由は複数ありますが、最も重要な要素は以下の3つです。

北米市場での存在感強化

資生堂は長年アジア市場に強みを持ってきましたが、グローバル成長のためには北米市場の攻略が最重要課題でした。その中で、既に米国で成功しているD2C系ブランドを取り込むことは合理的な戦略でした。

“クリーンビューティー”市場への本格参入

買収当時、世界的にクリーンビューティーが大きなトレンドになっており、資生堂のポートフォリオにその領域の旗艦ブランドはありませんでした。ドランクエレファントはその空白を埋める存在だったのです。

プレミアムスキンケア事業の強化

資生堂は2030年に向けて「スキンビューティーカンパニー」としての成長を掲げており、プレミアムスキンケア領域を伸ばすことは事業戦略の柱でした。その点、ドランクエレファントは高単価で利益率も高く、資生堂の成長ドライバーとして期待されていました。


買収後の初期(2019〜2021年):順調なスタートと高まる期待

買収後の最初の2年間、ドランクエレファントは順調な滑り出しを見せました。

好調要因

  1. 北米中心の売上伸長
     既存のファンによる購入継続に加え、資生堂の販売網を活用した展開が進みました。
  2. コロナ禍によるスキンケア需要増
     2020〜2021年は「ステイホーム美容」が流行し、スキンケアブランド全体が伸びる環境にありました。
  3. 新商品がSNSでヒット
     プロテインポリペプチドクリーム、ビタミンCセラムなどの人気商品が話題になりました。

この頃、資生堂はドランクエレファントを「グローバルの次世代成長ブランド」として位置づけ、欧州・アジア展開の強化も進めていました。

しかし、その順調な流れは2022〜2023年に入ると少しずつ変化していきます。


2022〜2023年:競争激化とブランド勢いの鈍化

2022年以降、ドランクエレファントは複数の要因により勢いを失い始めます。

クリーンビューティーブランドの急激な増加

ドランクエレファントの成功を受け、同様のコンセプトを掲げるブランドが大量に登場しました。

  • The Ordinary
  • Summer Fridays
  • Glow Recipe
  • Youth To The People
  • Paula’s Choice

など、北米を中心にミレニアル向けブランドが乱立。特に「クリーン」「ビーガン」「エシカル」などの訴求が一般化し、ドランクエレファントの独自性が薄れました。

価格帯が高く景気変動の影響を受けやすい

世界的なインフレや消費者の節約志向が強まる中、80〜120ドル級の商品は購入ハードルが高くなりました。

SNS戦略の失速

インフルエンサーマーケティングが競争激化し、以前ほどのSNS拡散力が保てなくなりました。

これらの影響は、2024年〜2025年の決算に如実に表れ始めます。


2024〜2025年:ドランクエレファントの売上が失速、資生堂の決算に影響

資生堂の2024年〜2025年の決算資料では、ドランクエレファントについて次のような指摘がされています。

米州(Americas)事業での苦戦

北米市場はドランクエレファントの主戦場ですが、2024〜2025年の資生堂の決算では「米州の売上減速」が明記されています。

明らかに、ドランクエレファントの売上鈍化が米州収益に影響しはじめています。

旅行小売(TR)チャネルの落ち込み

アジアや欧州でのTR需要が弱まり、ドランクエレファントも影響を受けています。

在庫増加と生産調整

決算資料には「在庫が過剰」「生産調整が必要」と記載されており、サプライチェーンの効率性にも課題が見られます。

資生堂グループ全体の損益を圧迫

2025年の通期予想では、最終損益が(約▲520億円の赤字)と記載され、その要因のひとつにドランクエレファントの業績が含まれると報じられました。

買収時には「成長エンジン」と期待されたブランドが、逆にグループの利益を押し下げ始めているのです。


なぜドランクエレファントは失速したのか?根本要因を分析

失速の理由は複合的ですが、主に次の5つが挙げられます。

ブランドポジショニングの曖昧化

クリーンビューティーの定義が広がるにつれ、ドランクエレファントの“らしさ”が伝わりにくくなりました。

  • 価格は高いのに差別化が弱まる
  • 機能訴求が競合ブランドと似てくる

ブランド戦略の再構築が必要な状況でした。

SNS・インフルエンサー戦略の頭打ち

TikTokの台頭により、Instagram/YouTube中心の戦略が相対的に弱くなりました。

高価格帯ゆえの購入ハードル

世界的なインフレで「高単価のスキンケア」は真っ先に削られる傾向があります。

製品数が増えすぎたことによる混乱

ブランドの世界観が広がりすぎ、コアとなる商品やメッセージがぼやけたことも挙げられます。

買収後の統合(PMI)の難しさ

アメリカのD2Cブランドを日本の大企業が統合する難しさは多くの企業が経験する課題です。

  • 意思決定スピード
  • ブランド文化の維持
  • サプライチェーンの最適化
  • マーケティングの温度感

ここにズレが生まれていた可能性があります。


資生堂は何をしているのか:ブランド再建のための具体的施策

資生堂は2025年の決算説明の中で、ドランクエレファントの再建に向けて次の取り組みを進めていると説明しています。

ブランドの「再エンゲージメント」

ブランドポジショニングを見直し、ターゲットに刺さるブランドストーリーを再構築しています。

SKU整理と商品のスリム化

売上効率の悪い製品を整理し、主力商品にフォーカスする施策が進められています。

サプライチェーン改革

過剰在庫・生産調整が経営計画に影響しているため、調達から輸送までの流れを最適化。

販売チャネルの最適化

  • セフォラでの棚最適化
  • デジタル販売のテコ入れ
  • TR(旅行小売)比率の見直し

ブランドを象徴する新商品の投入

新しいフラッグシップ商品が計画されていると報じられており、再成長を狙う動きが始まっています。


それでもドランクエレファントに可能性が残されている理由

苦戦しているとはいえ、ドランクエレファントには十分な回復余地があります。

理由1:ブランド認知が依然として高い

米国の若年層では「知名度は維持されている」ことが強みです。

理由2:成分クオリティは未だトップレベル

製品そのものの評価は高く、ファンも多いブランドです。

理由3:クリーンビューティー市場は成熟しても消失しない

市場は再編の局面にあり、“本物のブランドだけが残る”タイミングとも言えます。

理由4:グローバル展開の余地が大きい

アジア圏ではまだ導入余地が多く、潜在的な成長市場です。


今後の方向性:ドランクエレファントはどう再成長するか?

資生堂が進める再建策を踏まえると、今後の焦点は次の3つです。

ブランドストーリーの再構築

  • 創業理念に立ち返る
  • ターゲットを明確化する
  • SNSでの発信軸を整理する

ここが成功すればブランド価値は再び高まります。

商品ポートフォリオの刷新

  • 主力商品の強化
  • 新フラッグシップ商品の投入
  • ラインナップの明確化

販売戦略の再定義

  • 北米ECの強化
  • アジア市場への本格展開
  • セフォラとの協業最適化

これらが揃えば、再び「成長ブランド」の地位に戻る可能性があります。


まとめ:買収劇の“今”は苦戦。しかし未来はまだ閉ざされていない

資生堂のドランクエレファント買収は、当初は成功と期待される案件でした。しかし、2022〜2025年にかけて競争環境の激変、価格帯の課題、SNS戦略の鈍化、サプライチェーンの問題などが重なり、ブランドは一時的に停滞しています。

しかし同時に、次のような“復活の条件”が揃っているのも事実です。

  • 高いブランド認知
  • 優れた商品力
  • グローバル展開の余地
  • ブランド再生のための組織改革が始まっている

資生堂はすでに「再エンゲージメント戦略」を掲げており、ドランクエレファントの本質的価値を取り戻すためのプロセスに入っています。

今後数年は、ブランドの再成長に向けた重要なフェーズとなるでしょう。

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この記事を書いた人
MANDA編集部 森田

なにかと課題の多いM&A業界を民主化し、日本の未来を大きく左右する「事業承継問題」を解決することが、私たちのミッションです。M&Aをこれから始める方から、M&Aのプロフェッショナルの方まで、M&A周りを判りやすく丁寧に解説します。

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