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Ubisoftが決算発表を“延期”した異例の事態を徹底解説

M&Aニュース

2025年11月13日、世界有数のゲームパブリッシャーである Ubisoft(ユービーアイソフト) が、
本来予定していた 2025–26年度上半期(H1)決算発表を突然延期し、同時に株式および社債の取引停止を当局に要請した というニュースが、世界のゲーム業界と金融市場を大きく揺らしました。
延期後、Ubisoftは 「新たな決算発表日を2025年11月21日までに設定する」 と発表し、異例の措置が続いています。

決算発表の“直前”に延期が行われる事例は、フランス上場企業では大手企業として非常に珍しいケースです。ゲーム企業としても異例であり、市場は急速に「何が起きているのか?」とセンシティブな反応を示しました。

本記事では、この決算延期の背景、Ubisoftが抱えていた構造的な課題、市場が懸念しているポイント、ゲーム業界全体への影響、投資家が注目すべきリスク、そして企業再編の可能性まで、徹底的に解説していきます。


  1. Ubisoftとはどんな企業か
    1. Ubisoftの代表的なIP(知的財産)
  2. Ubisoftが直面していた構造的課題
    1. 超大型タイトルの開発遅延
    2. 過度なAAA依存モデル
    3. ライブサービス化の遅れ
    4. コスト負担の増加
    5. 2023〜2025年の連続減益と株価低迷
  3. 「決算延期」自体は何を意味するのか
    1. なぜ決算延期は市場の懸念を招くのか?
    2. 「財務に重大な不確実性が発生した可能性」
    3. 「監査上の指摘・調整」が必要なケース
    4. 「重大なイベントが進行中」であることを意味することも
  4. Ubisoftはなぜ“株式・社債”の取引停止まで要請したのか
    1. 理由①:投資家保護のため
    2. 理由②:決算数値の確定がまだできない
    3. 理由③:財務に影響する重大なイベントが進行中
  5. Ubisoftのビジネスモデルと“決算延期”の関係
    1. 開発費資産の計上ルールの難しさ
    2. ライブサービスの会計基準の難しさ
    3. 世界中のスタジオの集計調整
  6. 市場が警戒している「5つのリスク」
    1. 巨額減損のリスク
    2. AAAタイトルの再遅延
    3. 経営体制の変革(人事)
    4. 資金調達の必要性
    5. 戦略的パートナー(巨大企業)との交渉
  7. Ubisoftの今後のシナリオ
    1. シナリオ1:減損を含む“厳しい決算”を発表しつつ再建へ
    2. シナリオ2:大型タイトルの遅延・計画修正
    3. シナリオ3:企業再編・買収交渉を含む“大型イベント”
  8. まとめ:決算延期は“重大な経営フェーズの転換点”

Ubisoftとはどんな企業か

——「AAAゲームの雄」から「経営再建フェーズ」へ

まずは、Ubisoftがどのような企業であり、どんな状況にあったのかを整理します。

Ubisoftの代表的なIP(知的財産)

Ubisoftは世界的なゲームパブリッシャーで、以下のようなメジャータイトルを多数抱えています。

  • Assassin’s Creed
  • Far Cry
  • Tom Clancy(Rainbow Six / The Division / Ghost Recon)
  • Watch Dogs
  • Just Dance
  • The Crew

一時期は、EA・Activisionと並んで世界トップ級のポジションにいました。

しかし近年、次のような課題が指摘されてきました。


Ubisoftが直面していた構造的課題

——延期の“伏線”として業界で語られてきた要因

決算延期の前から、Ubisoftの経営には複数の構造リスクが存在していました。

超大型タイトルの開発遅延

AAAタイトルは開発に5〜7年規模を要し、
-「延期」
-「再構築」
-「品質確保のためのリリース見送り」
が続発していました。

とくにシリーズ作品の開発負荷は高く、開発チームの過重労働や離職も問題視されていました。

過度なAAA依存モデル

UbisoftはAAA依存度が高く、
1本あたりの開発リスクが巨大化
していました。

大ヒットすれば莫大な収益になりますが、延期や品質問題が起きた瞬間に業績が大きく落ち込む脆弱性を抱えていました。

ライブサービス化の遅れ

業界は
「買い切り → ライブサービス(GaaS)」
へ大きく移行しています。

しかしUbisoftは、

  • レインボーシックス シージ以降、新たなGaaSの柱を確立できていない
  • Assassin’s Creedシリーズは単体で巨大だが、継続課金型の収益モデルが弱い

という課題を抱えていました。

コスト負担の増加

ゲーム開発費は年々増大しており、

  • AAAタイトルの制作費が数百億円規模
  • マーケティング費を含めればさらに膨張

という状況の中で、計画遅延がダイレクトに財務に影響します。

2023〜2025年の連続減益と株価低迷

Ubisoftは2023–24年頃から利益が伸び悩み、株価も以前のピーク比で大きく低下していました。市場の期待が下がるなか、投資家は次の“決算発表”に強い注目を寄せていました。

その矢先に「延期」が発表された ことで、市場が神経質になるのはある意味当然の流れといえます。


「決算延期」自体は何を意味するのか

——一般企業では“最悪のシグナル”とされる理由

決算延期は、金融市場において最も警戒されるサインの一つです。

なぜ決算延期は市場の懸念を招くのか?

理由は3つあります。


「財務に重大な不確実性が発生した可能性」

決算が正常に作れないということは、

  • 売上・利益の計上時期の問題
  • 原価計算の誤りや未確定処理
  • 動産・ソフトウェア資産の価値見直し
  • 減損処理の要否判断

といった、財務の根幹に関わる問題が起きている可能性を示唆します。

ゲーム企業では、とくに
「開発中タイトルの資産価値」
が問題になりやすく、状況次第で巨額の減損につながることがあります。


「監査上の指摘・調整」が必要なケース

決算発表直前だった点から考えると、
監査法人のチェックで問題が指摘された”
可能性も否定できません。

ゲーム企業の監査では、

  • 開発費資産の計上基準
  • 売上認識(DLC・デジタル販売)
  • GaaSの収益認識基準

などで細かい調整が発生しやすく、
年度末や上半期決算で監査が詰まることもあります。


「重大なイベントが進行中」であることを意味することも

決算延期と同時に取引停止を要請している点を見ると、

  • M&A交渉
  • 事業売却
  • 経営構造改革
  • 大規模な減損
  • 投資家保護を目的とした“情報ギャップ防止”

など、企業価値に影響するイベントが進行している可能性もあります。

市場では、「何か隠しているのでは?」という疑念が湧き上がりやすく、株価への影響も大きいです。


Ubisoftはなぜ“株式・社債”の取引停止まで要請したのか

——上場企業が最も避けたい“重い判断”

決算延期だけならまだしも、Ubisoftは 株式および社債の取引停止を規制当局に要請 しています。これは非常に重い措置で、企業としても簡単に選べるものではありません。

なぜそこまでの判断になったのでしょうか?

理由①:投資家保護のため

決算延期を発表した瞬間に株価が乱高下する可能性が高く、
不公平な取引が行われるリスクがあります。

とくに海外市場では、情報ギャップによる不公平取引を非常に厳しく規制しています。

理由②:決算数値の確定がまだできない

  • 減損の規模
  • 売上認識の調整
  • 原価計算の見直し
  • 各地域オフィスの集計調整

など、確定しないまま市場で株価が動くのを避ける判断です。

理由③:財務に影響する重大なイベントが進行中

市場の一部では、

  • 企業評価の見直し
  • 資金調達
  • 特定プロジェクトの中止
  • 戦略的パートナーとの交渉
  • M&Aの可能性

などを懸念する声も出ています。


Ubisoftのビジネスモデルと“決算延期”の関係

——ゲーム企業特有のリスクが顕在化した可能性

ゲーム会社は、製造業や小売業とは決算構造が大きく異なります。
今回の延期は、ゲーム企業特有の財務構造の複雑さが背景にある可能性もあります。

開発費資産の計上ルールの難しさ

欧州の会計基準では、
「開発フェーズ以降は開発費を資産計上できる」
というルールがあります。

しかしゲーム業界では…

  • 開発期間が長い
  • 開発途中での仕様変更が多い
  • 開発チームの変更が頻発
  • プロジェクトの中止リスクが高い

という特徴があります。

このため、
「将来利益を生む見込みが薄れた場合は減損が必要」
となり、大規模な損失計上につながります。

その判断に時間がかかるケースがあります。


ライブサービスの会計基準の難しさ

GaaS(ゲーム・アズ・ア・サービス)の場合、

  • オンライン収益はどの期間に計上すべきか?
  • DLC収益・シーズンパス収益の認識タイミングは?
  • 予約販売・先行課金の計上方法は?

など、細かい会計処理が必要になります。

AAAの大型オンラインタイトルが増えているUbisoftでは、会計処理が複雑化しています。


世界中のスタジオの集計調整

Ubisoftは

  • カナダ
  • フランス
  • アメリカ
  • 中国
  • 東欧
    に大型スタジオを持っており、会計手続きが非常に複雑です。

多拠点の会計処理を統一するのは難しく、遅れが出ることも珍しくありません。


市場が警戒している「5つのリスク」

今回の決算延期で、市場は次の5つの点に注目しています。

巨額減損のリスク

開発中または既存IPのリストラによる
数百億円規模の減損
が起きる可能性があります。

AAAタイトルの再遅延

AAAが再び遅延すれば、

  • 売上の繰り延べ
  • 開発費の増加
  • 投資家の失望

につながります。

経営体制の変革(人事)

経営上のコンプライアンス問題は過去にもあったため、

  • 標準化の遅れ
  • コンプライアンス監査
  • ガバナンス改善

が進んでいる可能性もあります。

資金調達の必要性

決算延期と取引停止が重なると、
「流動性確保の必要性」
を疑われることがあります。

戦略的パートナー(巨大企業)との交渉

ゲーム業界は再編が激しく、

  • Tencent
  • Microsoft
  • Sony
  • Embracer
    など、巨額買収が繰り返されています。

Ubisoftも過去に買収の噂が出た企業であり、
今回の動きで「再編の可能性」が急浮上しています。


Ubisoftの今後のシナリオ

——決算延期が示す“3つの未来”

今回の件を踏まえると、Ubisoftの今後は次の3つの方向性に分かれます。

シナリオ1:減損を含む“厳しい決算”を発表しつつ再建へ

最も現実的なシナリオです。

  • 開発費の減損
  • 不採算IPの整理
  • スタジオ統合
  • 組織改革

を行うリストラフェーズ入り。

決算延期=大きな構造改革の前段階
となるケースです。


シナリオ2:大型タイトルの遅延・計画修正

AAA依存のUbisoftでは、
1作の遅延=数百億円規模の影響
があります。

決算延期はその影響額の再計算が必要になったサインである可能性があります。


シナリオ3:企業再編・買収交渉を含む“大型イベント”

企業価値に直結する情報は開示前に市場で株価が動くとまずいため、
そのリスク回避として取引停止を求めることがあります。

この場合、

  • 部門売却
  • スタジオ売却
  • 提携
  • 出資受け入れ
  • 一部買収
    など重大イベントの可能性があります。

まとめ:決算延期は“重大な経営フェーズの転換点”

——Ubisoftは今、大きな歴史の分岐点に立っている

Ubisoftの決算延期と取引停止要請は、
単なる会計上の遅れではなく、同社の経営が大きく転換期を迎えていることを示唆しています。

ポイントを整理すると:

  • 2025–26年度上半期決算を直前で延期
  • 株式・社債の取引停止を当局に要請
  • 新たな決算発表予定は2025年11月21日
  • 背景にはAAA依存・開発遅延・収益モデル転換の遅れ
  • 巨額減損・構造改革・企業再編などの可能性
  • ゲーム業界の再編の流れに再び組み込まれる恐れ

ゲーム業界は大きな再編期にあります。
Ubisoftの今回の動きは、その中心にある巨大企業がいかにして
“新しいゲーム経済” に適応していくかを象徴する事例といえるでしょう。

この記事を書いた人
MANDA編集部 森田

なにかと課題の多いM&A業界を民主化し、日本の未来を大きく左右する「事業承継問題」を解決することが、私たちのミッションです。M&Aをこれから始める方から、M&Aのプロフェッショナルの方まで、M&A周りを判りやすく丁寧に解説します。

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