さくら薬局とは
さくら薬局は、全国約800店舗を展開する大手調剤薬局チェーンです。母体はクラフト株式会社で、NSSK(日本産業推進機構)が2023年に買収して再建を進めてきました。
業績は安定しており、2023年度には売上高約1,536億円、営業利益127億円を計上しています。地域密着型の店舗運営を強みとし、かかりつけ薬剤師制度や在宅医療にも積極的に対応しています。
日本は高齢化に伴う医療需要が増加しており、調剤薬局は地域医療インフラの中核を担っています。こうした背景の中で、さくら薬局は重要な役割を果たしてきました。
M&A概要
- 買収主体:アインホールディングス(アインHD)
- 売り手:NSSK-WWおよびその関連会社
- 契約締結日:2025年5月28日
- 株式譲渡実行予定日:2025年8月
- 買収金額:591億円(59,100百万円)
- 対象:さくら薬局グループ全株式
アインHDはこの買収により、調剤薬局業界トップクラスの店舗数を確立し、グループ合計で2,000店舗超となります。
買収価格の妥当性は?
EV/EBITDA倍率
さくら薬局の直近EBITDAを仮に150億円とすると、591億円の企業価値は 約3.9倍。業界水準である4〜6倍と比較すると、やや割安な水準です。
プレミアムの水準
上場会社ではないため株価プレミアム比較はできませんが、過去の調剤薬局M&A案件と比べても妥当性は高いといえます。
結論として、アインHDは適正価格で買収を実行できたと考えられます。
アインHDの狙い
アインHDは国内最大級の調剤薬局チェーン「アイン薬局」を展開しており、今回の買収は成長戦略の一環です。
主な狙い
- 店舗網拡大:2,000店舗超への拡大で業界首位固め
- シナジー効果:調剤・化粧品・ヘルスケア事業の連携強化
- DX推進:さくら薬局が持つシステムやデータ活用の統合
- 中期経営計画の前倒し:「Ambitious Goals 2034」の売上7,000億円超目標に寄与
地域医療ニーズが高まる中、かかりつけ薬局機能や在宅医療対応を強化することも重要な狙いです。
資金調達の仕組み
買収資金は、アインHDの手元資金と金融機関からの借入の組み合わせで賄われるとみられます。
- 自己資金:近年の好業績により潤沢なキャッシュフロー
- 銀行借入:メガバンクを中心に調達
- 負債比率:自己資本比率は高水準を維持しており、過度な財務リスクはない
財務健全性を損なわずに買収を実行できる点が強みです。
株主・従業員の反応
株主
さくら薬局は非上場のため株式市場での反応はありません。ただし売却を行ったNSSKは、企業価値向上後のイグジットに成功したと評価できます。
従業員
従業員にとっては、大手グループ傘下となることで教育体制やキャリアパスが充実するメリットがあります。一方で、システム統合や人事制度変更に伴う不安も想定されます。
規制・ガバナンス面
調剤薬局業界では、薬価制度や調剤報酬の改定が経営に大きく影響します。今回の買収では以下の対応が求められます。
- 公正取引委員会の承認:独占禁止法上の審査
- コーポレートガバナンス:少数株主はいないが、統合後の透明性確保が重要
- コンプライアンス強化:薬剤師法や医薬品医療機器法への対応
タイムライン
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 2023年3月 | NSSKがさくら薬局を買収(再建開始) |
| 2025年5月28日 | アインHDと株式譲渡契約締結 |
| 2025年8月 | 株式譲渡実行予定 |
| 2025年秋〜 | PMI(統合プロセス)開始 |
| 2030年頃 | 完全統合・業績シナジー実現 |
類似事例との比較
| 案件名 | 買収額 | EBITDA倍率 | コメント |
|---|---|---|---|
| アインHD×さくら薬局 | 591億円 | 約3.9倍 | 妥当な水準、統合効果期待 |
| 日本調剤×某薬局 | 非公開 | 約5倍 | プレミアム高め |
| スギHD×関西薬局 | 約400億円 | 約4.5倍 | 地域戦略色が強い |
比較しても、さくら薬局の買収は割安で良質な案件といえます。
リスクと課題
- 統合リスク:システムや企業文化の違いによる混乱
- 人材流出:従業員のモチベーション管理
- 制度変更リスク:薬価制度改定で収益悪化の可能性
- 財務リスク:金利上昇による借入コスト増
これらの課題に対応できるかが成功の鍵です。
まとめ
アインHDによる「さくら薬局 買収」は、調剤薬局業界の再編を加速させる画期的なM&Aです。
- 業界首位の基盤強化:2,000店舗超のネットワーク
- 成長戦略の一環:「Ambitious Goals 2034」への寄与
- 妥当な買収価格:業界水準よりやや割安
- 課題:統合マネジメントと規制対応
経営者にとって本件は、「M&Aを通じて業界地図を塗り替える」成功事例として学ぶべき要素が多く含まれています。


